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三軒茶屋を流れるもの

 

三軒茶屋に行くと、「弟を心配する自分」を思い出す。

 

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年の離れた弟がいる。

年が離れているから、ろくに喧嘩もすることなく、なんとなく仲良くやってきたように思う。

弟には、なんとなく深く悩んでいそうな時期があった。

そのころ彼は、三軒茶屋に住んでいた。

わたしは親の心配なども背負って、ときどき弟に会いにいき、一緒にご飯を食べたり、買い物をしたりしていた。 

 

だから今でも、三軒茶屋は「弟を心配する自分」の空気が残っている街だ。弟はとっくに転居し、もうそこに住んではいない。彼がこの街に居ないことを、なぜかわたしはさみしく思う。そして、たいした用はなくっても、たまに訪れてしまう。

 

田園都市線の改札を出て、246を歩く。茶沢通りを進んで下の谷商店街を歩いてもいいのだが、弟の家に行くときにみつけた、ある暗渠を歩きたいので、246を歩く。

 

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テル子支流と呼ばれている暗渠だ。はじまりの細い路地が、いつの間にか綺麗になってしまっていた。

 

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この細い路地が、たまらなくいい。

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その先少し幅広となって、弧を描く。そこにあるテル子女神像が、この支流の名前の由来。といっても、適当に呼んでいるだけだけれど。

 

この暗渠が合流する先にあるのは、烏山川である。立派な緑道となっている。

 

 

この「三軒茶屋あたりの烏山川」のことを、三好達治が描いている。

 

ある年の5月に、三好は散歩に出かけた。5月は散歩に良い。三好は「とある大通りの、そこからその道の向こうがゆるやかな谷底になって」、川のありそうな場所に出る。家が途切れ、麦畑になる。

 

三軒茶屋の駅近辺に向かおうとする際、烏山川を渡る。

「そうした私は橋板のつぎはぎだらけな木橋の太子堂橋というのの上に立ちどまった。水の音がさらさらと声をたてている。そのせせらぎの起こっているところは、そこからずっと上流の方へかけて見通しになっていて、その両岸からここではまた鮮やかな緑の枝がところどころ危うげに傾きかかっているのが眺められた。」

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なかなか風情ある景色・・・しかし描写はこのようにつづく。

 

「それは一寸洒落ていたが、けれどもその下を流れる水量の乏しい水は真っ黒な汚水で、汚水の臭気は橋の上の私までは届かなかったけれども、夏蜜柑の皮のいっぱい散らかっている間から起こるそのせっかくのせせらぎの声は、やがて私に戦慄を伝えないではおかなかった。」   三好達治「東京雑記」より

 

 

麦畑と鮮やかな緑の並ぶ川沿い。

しかし、川はくろぐろとしている。

 

あのときの弟は、くろぐろとしたものを抱えていたのかもしれないが、それをわたしに直接見せることはなかった。ただなんとなく、感じ取ることはあった。あのとき、わたしはもっと水面を見なければならなかったのだろうか。わたしたちは、好きなゲームやマンガ、最近作った料理の話、弟の家の近くの猫の話、そんな話ばかりしていた。

 

いま、烏山川はまったくそのころの面影をとどめていない。きれいな緑道になっていて、その装飾が想像させようとしているものは、澄んだ水が流れていた頃の烏山川なのである。実際は下水が流れているのだが、きれいに蓋をされ、安全にガードされている。

 

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いま、弟は、わたしよりはるかに頼れる人物になっており、みなにやさしく、しっかりとした社会性をもっている。わたしが心配されることさえある。弟はいつのまにかおそらく、くろぐろとしたものを、乗り越えていたのだった。

 

三軒茶屋に行くとかならず寄る店がある。あの三角地帯の中華饅頭屋、包包。この店も、弟が教えてくれたもので、彼は海老包が好きだったらしい。この日は高菜と角煮入りまんと、なにも入っていない包と、春巻を買った。

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何故わたしは、弟がこの街に居ないことをさみしく思うのだろう。もしかしたら、わたしは弟を心配するという、長子らしいことをしたかっただけなのだろうか。その役目を果たせたのかどうかも、よくわからない。

 

たぶん、わたしにとって三軒茶屋はいつまでも、「弟を心配しに行く街」なのだ。

弟はもうそこにはいないのだけど。

 

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