地下に眠りし人工河川、環七地下調節池のおはなし
先日の豪雨のさい調節池が活躍したニュースに、なんだか頼もしいような誇らしいような気持ちになったひとも多いはず。
豪雨からわたしたちを守ってくれる、分水路に調節池。あの日は、首都圏外郭放水路(見学したときの記事)も働いていたのではないでしょうか。
ニュースでも触れられていた神田川。神田川水系には、調節池が9つ(完成済)あります。そのうち、最大といえる環七の地下調節池に見学に行ったばかりであり、タイミングもよいので記事にすることにします。
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ツアーは、神田川クルーズをしてから方南町まで移動して見学という面白い行程でした。わたしは一応パンクチュアル(1分前とか)だったのに、既に全員が集合しており初っ端からなんだかダメな遅刻野郎みたいな目で見られる(注:気のせい)という、不思議な見学会でありました。
カワセミに乗って、
分水路を見たりするわけです。
分水路については、過去記事(暗渠のウルトラマンをゆく)にて水道橋分水路内に入ったレポートをしているので、今回は省略。
ちなみにこのとき、ガイドさんが「ネットを見ていると、分水路に入ったことを自慢げに書いている人がいるが、ガスなどが溜まっているかもしれないので危険な行為です。でも、自慢している人がいるんですよ。」と批判的に仰ってました・・・うう、勝手に入ったわけじゃないんですけど・・・
で、調節池の部へ。
調節池、は、開渠を歩いていると時折目にします。実は調節池には種類があり、自然流下を利用する「掘込み式」(善福寺川の和田堀にある3つなど)と、排水ポンプの付いた「地下式」(妙正寺川の落合や上高田にあるものなど)、そして今回見に行く「地下トンネル式」があります。
「神田川・環状七号線地下調節池善福寺川取水施設」。環七地下調節池は、取水施設、調節池トンネル、管理棟から構成されるもので、つまりこの取水施設も調節池の一部にあたります。ここが今回の会場。
いま居るのは善福寺川の取水施設ですが、同様のものが神田川、妙正寺川の脇にもあります。
調節池の説明は、模型を使ってなされました。模型っていつ見てもうきうき。
オレンジ丸は取水施設が善福寺川に接している箇所の護岸部分であり、このように穴があり、そこから水を取り入れます。
そこには越流堰があり、上下に動くゲートがついています。洪水のおそれが出てきたとき、このゲートはまず閉まり、水が入らないようにします。なぜかというと、ピーク時に合わせて水を流入させるため(ダラダラ入れてしまうとピーク時の水が十分に取水できなくなる恐れがある)です。
その裏側、取り込んだ水が流れていく先はこうなっています。
ドロップシャフト(流入孔)で立坑の下のほう(減勢池)へ落とされます。ドロップシャフト、というのは回転させながら水を落とすもので、騒音や振動を防ぐ仕組みになっています。このドロップシャフトを水が落ちていく映像を外郭放水路で見ましたが、なめらかでうつくしく(まるで円筒分水のように)、ご飯何杯でもいけるほど好きな感じでした。
もう少し引いてみると、こう。
立坑に落ちた水は矢印のように連絡管渠内を流れてゆき、
環七の地下に行きます。
この、黒っぽい管こそが神田川・環状七号線地下調節池の調節池トンネルです。
ここに水が貯留され、後ほど排水ポンプで放流渠から放流されます。
管理棟には神田川の数か所を観察できるモニターがありました。ここで、注意深く水位の上昇を見るのでしょう。
モニターの横には、中央監視操作盤がありました。きっと先日も、ここに職員さんが駆けつけ、詰めていたことでしょう・・・
さて、いよいよ地下に降りていきます。
立坑内の階段を降ります。
これがめちゃめちゃ深い。特に上りがむちゃくちゃつらい、今までの地下見学系で最高の部類です。見学者は50人くらいだったでしょうか、明らかに最若手だったので、ポーカーフェイスで上り下りしましたが・・・。
降りきって、まず見えるのはドロップシャフトの出口。
ついで、連結管渠の中を歩いていきます。
壁には「マルヒ」とか「マルウ」とか書いてあって気になります。
「ヒ」はヒビワレのヒで、点検の跡なのだそうです。
ここが連結管渠と調節池トンネルの接続箇所。いよいよ環七の下です。
いま通った連結管渠も大きいと感じましたが、こちらは半端ない広さ・・・
果てしなく広がる闇・・・
向こうの端には妙正寺川、後ろの端には神田川。計4500mの長さです。
内径は12.5m、そしてこの上(土被)は34~43m。なにもかもが大きい。
下に溜まっているのは雨水ではなく、消防用の水なのだそうです(冬場のみ溜めている)。
この調節池ができたことによって、浸水被害は激減することとなりました。年に2回ほどの稼働のようですが、これまでの記録(見学時点)によれば、平成21年の台風18号のときが最も流入量が多く、調節池の94%まできたそうです。
先日はどのくらいであったのか・・・まではわかりませんが、
調節池を管理する東京都第三建設事務所、工事第二課の尾上靖課長は「モニターを見ながら川の水を適切に排出することができた。ピークに達してから順調に川の水位が低下し、効果があったと思う」と話しています。
ニュースを読むと調節池とあの管理棟が頑張っていたことが想像されるのです。
ちなみに、この調節池トンネルは年に1度掃除をされ(魚が救出されることもあるそう)、その直後のキレイなときに見学会(2月)をしてくれます。
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さて、ゴハン。
方南町に来ているわけですから、食事はやっぱりアノ蕎麦屋さんでしょう。ちかてつそば。方南町の駅を出てすぐのところ。
それは、衝撃の「ぬるい」があるお店。
えいはちさんが行かれた時には「ぬるい」がもっと変な感じで独立してたんですけどね。
単に「ぬるい」蕎麦があることが珍しい、だけではありません。わたくし極度の猫舌でありまして、何でも冷まさないと食べられません。世の中の食べ物がすべて「ぬるい」になってくれたら、どんなにありがたいことか。そんな風に思って生きてきたので、この蕎麦屋さんの「ぬる」はわたしにとって待望の「ぬる」なのです。
コロッケとちくわ天をのっけました。ぬるそば、ズルズル~。
・・・ストレスフリー!ぬる最高!
しばらく食べ進めると、目の前に「むきエビ天、4つで50円」がどーんと盛ってあることに気が付きました。えーなにそのあまり聞いたことのない天ぷら!むきエビ天にすればよかった―!としばし後悔していたのですが、ケビンさんによると、むきえび天は人気第3位みたいですね。でも、また食べにいこっと。
のんびり流れる善福寺川を横目に、帰途につきました。
***
実は話はもっと大きくて、地下河川構想、という壮大な構想とこの調節池は関わっていました。
環七の地下を白子川から東京湾までを結び、10河川(含下水道幹線)の洪水を流入させ東京湾に導く約30kmの地下河川、「環七地下河川」という構想があるのだそうです。
その構想のうち一部を先行的に整備したものが、この地下調節池なのでした。大部分が杉並区で、中野区が少々。ただし、この位置の調節池が機能した時点で水害がほとんど減ったため、計画は一応ここでストップしているとのことでした。
環七を走っていて意識することなんてほとんどなかったけれど、通るたびに地下に感謝したくなるようなお話です。
ふだんは、地下深くに眠っている人口の空洞。ふだんは、しずかなしずかな空間。ひとびとを水害から守るために、それはある。これもまたひとつの、暗渠のすがたです。
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コメント
あれ、ここ、エレベータがあるはずなのに…。
お披露目イベントに行った時は、エレベータで案内してくれました。
(ブログを始めて数週間目の時だったので、記事は貧弱ですが)
http://pub.ne.jp/sktk4a/?entry_id=703577
この時はトンネル内にトラックがあったのですが、神田川の取水施設には、トラックも乗れる大きなエレベータもあるそうです。
和田弥生幹線の和田ポンプ施設にはエレベータが無くてしんどい思いをしました。
http://pub.ne.jp/sktk4a/?entry_id=704886
建設局と下水道局の予算の関係?(笑)ってことはないと思いますが。
投稿: リバーサイド | 2013年4月11日 (木) 20時17分
>リバーサイドさん
あ、もちろんエレベーターはあり、一部の方が使われていました。ご高齢の見学者もいらしたので、わたしが使うわけにはいかなかったのですよ・・・足パンパンになりました。
うわー和田のはエレベーター無いのですか・・・それは大変。日本堤でもエレベーター使いませんでしたが、あそこは地下1階とかでスグでしたからね・・・
投稿: nama | 2013年4月12日 (金) 13時29分
はじめまして。ウォーキングが好きで、阿佐谷に住んでいるものですから、桃園川遊歩道は良く歩きます。昨年あたりから川関連に興味を持って、リバーサイドさんやnamaさんのサイトをよく覗かせていただいています。以前、阿佐谷駅前の無粋な工事現場に少々、イラついたこともありますが、namaさんのサイトで豪雨の際の重要な働きを知り、深く反省した次第(笑)。今回も環七地下の貯水池のお話しと写真を拝見し、日頃、何気なく歩いているその下に、物凄い世界があるものだと、驚愕いたしました。パリの地下道を彷彿とさせますね。また、こういった場所を見学するツアーがあるなんて・・・全然、知らなかった。勉強になります。いつも見ている場所や光景に隠されたものがあることを知ると、また違った興味を持って歩くことができるようになりますね。これからもどうかよろしくお願いたします。
投稿: bb5は最高 | 2013年4月12日 (金) 22時55分
>bb5は最高 さま
はじめまして。コメントどうもありがとうございます。
阿佐ヶ谷にお住まいなのですね。阿佐ヶ谷の暗渠は見どころが多くて素敵ですよね(本ブログでは最近取り上げてはいませんが、街歩きガイドで最初にご紹介する場所は阿佐ヶ谷の予定です→ http://www.tokyo-teqteq.com/event.php?_id=104
阿佐ヶ谷駅前の無粋な(←その感じは確かにわかりますw)工事現場は一時景観を悪くしていたかもしれませんが、内容を知ると無性に愛着がわき、箱が撤去された時に寂しく思ったほどでした。いつも見ている場所と、隠されたものがつながるときのよろこび、たのしみ、同感です。桃園川のことは調べても調べても新たな謎が出てきて、とても面白いです。お近くのことでご存じのことがありましたら、ぜひ教えてくださいませ。こちらこそ、よろしくお願いいたします。
投稿: nama | 2013年4月15日 (月) 11時03分
初めてお邪魔になります。
私は白子川貯水池工事の立抗アンド横抗の掘り出した残土の搬出業者でダンプ車の運転手させていただいている者ですが、事実現場で働いているとどこがどう繋がるのか分かりません。
詳しくお教えて頂けましたら幸いです。
明日からまたハードな青梅への搬出に頑張れますので宜しく御願いします。
投稿: | 2013年7月28日 (日) 08時28分
>?さま
はじめまして。コメントありがとうございます。
返信が遅くなり、申し訳ありません。
白子川での工事の土の搬出をされているのですか!現場で働かれている方にコメントをいただけるとは、嬉しすぎます・・・!土は、青梅まで持ってゆかれるのですね。
お尋ねの件ですが、「東京都河川図」をみると、”白子川地下調節池”は白子川から石神井川にかけて作られるようです。ルートは、白子川比丘尼橋(大泉IC入口)近辺~石神井川境橋近辺で、目白通りの下を通っているように見えます。
と、地図とにらめっこしながらお答えしたのですが、東京都第四建設事務所のサイトにはとてもわかりやすく載っていました(汗)。
http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/yonken/koji2/chikacho.html
到達立坑は境橋ではなくて練馬大橋下流側のようですね。現在はどの段階まで進まれたのでしょうか・・・。
お仕事、ご苦労さまでございます。そのお仕事のおかげで、わたしたちの生活が守られてゆくのだと思います。改めて感謝申し上げます。
投稿: nama | 2013年8月 2日 (金) 19時10分