暗渠めし 東京競馬場西門前食堂群
既に大手の書店では販売しているようなので、告知します。
11月26日発売予定の”地形を楽しむ東京「暗渠」散歩”(本田創編著、洋泉社)の一部を執筆させていただきました。
暗渠に興味を持ちはじめた頃、「暗渠」という語で検索してみてもそんな書籍は見つかることはなく・・・あの手この手で探し、少しずつ暗渠のことが書いてあるものを集めてきました。今こうやって暗渠の本に自分も関わらせていただけたことは、かなり感無量です。関係者の皆様に心より感謝しつつ・・・東京のさまざまなエリアをカバーしている良本だと思いますので(わたしは例によって自分の思い入れのあるちょこっとしか書いていませんが;;)、お買い求めいただけたらうれしいです。
***
と言いつつ、全然暗渠本とは関係のない内容で開始。今回はギャンブルめしの素晴らしさについて、とくとお伝えしたいと思っております。
前記事では、お祭りなのにアルコールが一切無い、という不思議な場に出くわしてしまいました。なので、なぜかおにぎりを二人で三つも頬張り、酒ではなく野菜の鍋を啜り、コロッケをビール抜きで食べ・・・。そして東武線から武蔵野線に乗り換えて、「貨物線だねぇ」「”浦和”が多すぎだねえ」なんてぶつくさ言いながら、ガタンゴトン終着駅までやってきたのでした。
そして、府中本町から歩いてくると、そこに広がるものは・・・!
うおー・・・。
実は、わりと最近、東京競馬場にギャンブルめしを味わいにきたのですが、以前とは打って変わった空間になっていたことに、ちょっと落胆して帰ってきたのでした。
周辺にある飲み屋で知っていたのは「加藤屋」くらいでした。でもそこもまあ、それほど引力があるわけでもなかった(外見的に)。でも、なんとなく諦めきれなくてボヤっと検索していたら、こういうサイトがヒットしたのです・・・。
ただ、こういう古いものって、現地に行ってみるともう無い(道路やマンションになっている)、とか、建て替えられた、とか、そういうパターンも想定しておかないと、かなり参っちゃうのです。なので、とにかく最後まで半信半疑で向かいました。だから、なおさら、感動・・・あったよ、あった・・・オケラ街道・・・
うおおー、この、屋根の上に書いてあるメニュー!昭和!
昭和の東京などで、「中華そば30円」と書かれた看板が目を引く商店街の写真がよくありますけど、それとなんら変わらない雰囲気なのです。浅草あたりではまだまだ現役かもしれないけれど、いまやあちこちで消滅してしまった雰囲気。
さあさあ、お店は何軒も並んでいます。どこに入る・・・?
・・・ここで、わたしたちはあるものに気づいてしまいました。
「千鳥」の下!・・・これ、暗渠じゃね?うん、これ暗渠だよねたぶん。
後ろを振り返ってみると、
あああ、もうこれ間違いなく暗渠だよね。そしてこのフェンスの向こうは開渠なんじゃないだろうか。
ここにあるってことは、府中用水だということ。以前、アトリエ77(川の絵本のお店)に来たときに、これの一本北を走る水路を見ていました。コンクリ蓋暗渠でやってきた府中用水が、開渠となって競馬場にまっすぐ向かっていくという、ドラマチックなものでした。
眩暈がするほど、網の目状に張り巡らされた府中用水。これは市川用水と呼ばれる、府中用水の主流路のひとつのようです。ちょうどこの付近は橋場というようでした(府中街道に渡した橋に関係?)。
立小便厳禁ですかそうですか・・・。開渠むき出しの頃は、トイレだと思う人もいらしたのでしょうか。
恋焦がれてやって来た飲み屋街で、思いもよらなかった水路と出会う。酔いが回らないうちに、下流も追ってみます。
すると、千鳥さんのところで店の下に潜った暗渠は、
このように、飲み屋さん数軒の下をくぐって流れているのでした。
まだまだ店の下。店蓋、ってことか・・・。
さらに下流にいくと、こうやってややカーブして競馬場に入っていきました。あとはもう追えません(でも、競馬場に入っていく・出てくる水路はいつかは網羅したいです)。
トイレが真後ろにあります。後述のお店たちにはトイレがないので、このトイレは西門飲みには必須の場所。
ん。待てよ。飲み屋さんの真下を通っている・・ということは・・・?
お店を覘いてみます。そろーり。
うおおお!!店内にコンクリ蓋暗渠が見えている・・・!!すご・・・目がまんまるになります。
もうまずはこの「みなみや」で飲むこと決定。
店に入ると、店員さんが「いらっしゃーい、どうぞ、奥のテレビの近くに座ってね~」と言ってくださるんですが、いえいえわたしたちの目当てはレース観戦ではないのです。と、可能な限り入口側に座りました。
ポテサラとモツ煮、ビール。
あれ、美味い!このポテサラ、ベーシックに美味い(富士食堂ほどではないけどなかなかのクオリティ)。モツもやわらかくて美味しかったらしいです。
・・・で、コンクリ蓋暗渠を見ながらビールをちびり。
チラッ。
つづいて、銀ムツの煮つけと熱燗も。
うぁぁぁぁ煮つけ美味いいいいいい!!味付けも絶妙にちょうどいい。この、菜っ葉がまた・・・煮汁をじゅうぶんに絡ませて口に運べば、もうハフーンです。
ここ、日替わりのお魚メニューがけっこう充実しているようでした。この日は、ほかにもアコウダイの塩焼きやサバ味噌があって迷いました。
その、魚のならぶケースを見るふりをしながら。
チラッチラッ。
メニューの配色も素敵でした。
しかしここ、揚げ物が一切ないんです。
こういうとこ来て、揚げ物を食べないってのはどうも調子が出ません。
ってなわけで、暗渠上からは外れてしまいますが、品数の豊富そうな「かめや」さんに移動してみました。
「かめや」は、今の「みなみや」の建物がものすごく頑強に思えてくるような、トタンとベニヤ板と、廃材のような柱でできたお店で。椅子もきっと手作りだと思います・・・それがまた、かなり良いんです。。
こんどは揚げ物から選びます。
アージーフーラーイー。
アジが立った!アジが立った!
いやー、盛り付けがうつくしい。背後に見えているお新香盛り合わせも、料亭のようなうつくしさで登場しました。
で、これもまた味のクオリティも高いんです。ただ、お値段もまあまあ。アジフライは700円でした。マグロ刺なんて1800円で、これは勝ったとき用のメニューなのだろうな。
最初はお客さんは2人しかいなかったのですが、徐々に増え始めました。そろそろ最終レース、といった時間帯。
何人かのお客さんが、「おかえりなさーい!」と声掛けをされていました(わたしたちは「いらっしゃい」)。
わははは、赤ワインがあるwなぜここにwww って、もう赤ワインって言いたいだけで頼んでしまいました。そんな、いろんなことのバランスがおもしろいお店でした。
気づけば、周囲はほぼ満席になりつつあり。6人くらいの団体さんが、万馬券祝いの「かんぱーい!!!」を盛大にやっていました。万馬券祝いで他のテーブルにマグロ刺を配ってくれたりしないかしら・・・とちょっと待ってみましたが、そんな現象は起きませんでした。
ああ・・・すごい非日常だなあ。週末だけ出現する、この空間。
・・・で、そろそろ帰ろうかという頃。外の景色が一変していました。
最終レースの時間帯に合わせてオープンエア席が出来るのです。各店、ここで本気を出し始めるようで、焼き鳥の煙が昼間の数倍増しくらいになってます。
人がどんどん店に吸い込まれ、最初「みなみや」で座ることのできなかった蓋暗渠の真上席にも、この時間なら座れるみたい。
あまりに良い眺めなので、ぐ~っと見入ってしまいました。
で、こういう方向で、あの人たちの足もとを府中用水が流れてんだよな。という視点ももちろん忘れずに。
帰ることが出来なくなってしまい、今度は中華そばのある「南里」さんの外席にどっかり。モロキュウ、熱燗。そして〆の中華そば。
目の前に暗渠があるんだよなー、なんて思ってほくそ笑みながら、ずるずる~。
・・・チラッ。
***
今回見た水路を濃いブルーの点線で示しました。ほかの水路は水色で。周囲はこのように、府中用水ラッシュのようです。
いかがでしたでしょうか。以前書いた江戸川競艇場前のめし屋さんも、なぜか素朴な姿の暗渠上にあり、そして非常に美味でした。今回も・・・これって不思議な共通点。自然と、次なるギャンブル美味暗渠めしの存在を期待してしまいます。
次回からは、暗渠本で書ききれなかった情報を補う趣旨の記事が続くと思います。が、ときどき、一服の清涼剤のように暗渠めし記事などを挟みつつ行く予定です。どうぞ、よろしくお願いします。
<参考文献>
菅原健二「川の地図辞典 多摩東部編」
くにたち郷土文化館・府中用水土地改良区「府中用水」
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