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花色街暗渠 鳩の街編

長いこと、暗渠の記事を書いていなかった気がします。
3月以降、仕事の量がほぼ2倍になっていて、それは震災に絡んで増えたものや延期になったもの、震災とは無関係に去年から予定されていたものや突発的に増えたもの・・・自ら志願したものや断り切れなかったものなど、ずいぶん色々なこと。加えて仕事以外のことで、今までになく胃を壊すという悪循環で、自分の記事作成はおろか、他の方のブログさえ読めないでおりました。
けれども暗渠のネタはずいぶん溜まっています。そろそろ、少しずつ書いていこうと思います。

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今回は、前の記事の続きです。色街と暗渠の旅、鳩の街編。
玉ノ井を歩き回り、西井堀沿いに移動していって、地蔵坂通り付近でぜひとも寄りたい店がありました。

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吉備子屋
ここは、暗渠趣味のもっと前から、わたしの食べたいものリストに入っていたきびだんごのお店です。

もともと行きたかったところに、ある日、KLOさんのサイト上で闊歩マンさんから、「吉備子屋の屋台が向島百花園前に出店している」という、鼻血の出そうな情報をいただきました。この屋台の感じがまた素朴で良いのなんの。
・・・けれど、実際に向島百花園に行ってみると、屋台は見当たらず。吉備子屋の店舗に行ってみると、店員さんが「今日はあんまりにも暑いんで、屋台はナシにしたのよ。いつもは行ってるんだけどね~。」だ、そうで。今日だけっすか!まあ、たしかにお団子を作る工程で、目の前で茹でるというものがあって、いかにも熱そう。・・・去年の夏の終わり、そう、あの酷暑のできごとでした。

そんな暑いなかですが、食べたいもんは食べます。きびだんご、ウマー!!!でした。やわらかくて、素朴な味で、何本でもイケそうです。ここにも興水舎のラムネを置いていました。

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そして次の目的地へと、西の方に向かいます。
墨堤通りから降りてくる、小さい階段。・・・裏道との間にずいぶんと段差があるようです。

これから向かうは、鳩の街。前回書いた、玉ノ井の色街が東京大空襲で焼けてしまったため、焼け出された業者5軒、娼婦12人が移動してきて、細々と営業を再開した地です。

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まもなく鳩の街通りに到着します。

もとはといえば、KLOさんの写真を見て、とても惹かれたのでした。そして暗渠の匂いはしないだろうかと、やってきたのでした。

まだ通りの入口に立っただけですが、商店街として実に味わい深い雰囲気を持っているような、そんな予感がしてしまいます。ここの歴史について、知らないとしても。

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通りを歩く前に、入口付近(墨堤通り側)でとても気になったものがあります。

橋の遺構でしょうか?・・・この後ろに建っているのは、ラブホです。ラブホの外壁とは不釣り合いなこのコンクリートは、川や川関係の名残だと思いたくなってしまいます。

わずかに向こうには、隅田川。「濹東向島の道」(鈴木都宣著)では、この地点を”隅田川の入江である、銅像堀”と言っています。以前はここらへんによく荷物船が係留されており、西村勝三という人の銅像が立っていたそうです。

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ここは、鳩の街通りの裏道です。このように一本のちょっといびつな道が、鳩の街通りの西側を並走します。

前掲書によれば、ここに明治期、”古川”という川が流れていたそうです。古川は先ほどの銅像堀から取水し、北十間川に向かって流れていきます・・・色街のすぐ裏を。
この古川の岸に隅田川の運ぶ土砂が積もって陸地が増え、鳩の街商店街通りはそのために出来た、川沿いの土手道であったと描写されています。

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・・・とはいえ、古川の暗渠であるはずの裏道には、暗渠サインはほとんど見られませんでした。裏道と、鳩の街通りを交互に歩きます。

商店街にはふるくて、思わず見とれてしまう建物が連なります。銭湯とお米屋さん。

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そして今回の目当てのひとつ、カフェ―建築。
それらしき建物は、鳩の街商店街に対して東側、つまり、古川とは反対側の裏道に何軒も残っています。

「デウスエクスマキな食堂 向島迷宮地帯」(kekkojinさん著)でも、娼街は一本裏道に連なっていた、と記されています。
「モツ煮狂い 第二集」によれば、鳩の街のピークは1955年で、業者108軒、従業婦は329名もここにひしめいていたとのこと・・・。想像ができません。今の鳩の街商店街は、ほのぼのとした音楽が流れ、夕餉の買い物のおばさまが会話し、子どもが駆け回る。そんな雰囲気です。

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凝った丸みやタイル使いが独特のうつくしさを持つ、建物。ここには、ピカピカのネオンや、お客さんを誘う女性の声が、またたいていたはず。

・・・この情景を、わたしは「濹東綺譚」の映画を見ることによって、少しだけ味わうことができました。(見る機会があったのは、1960年山本富士子主演のほうです。)
お雪の家の前に溝(どぶ)があったことは、前回の記事でも書きました。映画ではその溝がいつも中央に配置され、娼婦たちはその溝の前にしゃがんで歯磨きをし、口をゆすいだ水を溝にペッと吐いたり、雨で溢れるとキャーキャー言いながらどじょうをすくったりしていました。排水も流れ込むはずの、あまりきれいではなさそうな溝(ちなみに1m幅くらいのハシゴ式開渠)だけれど、女性たちは溝とともに(溝に対し肯定的に)生活をしていたように見えました。

・・・ここ、鳩の街ではどうだったでしょうか。脇を流れる古川や、他にもあったかもしれない排水路を、女性たちは愛でていたでしょうか。

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ちなみに、明治44年の地図を見ると、古川らしき流れを確認することができます。細~い、流れです。それから昭和30年代までは、ぽつ、ぽつ、と区切られたように水路のしるしを見ることができます。

今はどこも、ただの道ですが・・・、近くには井戸がありました。

それから、「濹東向島の道」によれば、吉備子屋のところで触れた地蔵坂通りも、川沿いの道であったそうです。現在の交通公園のあたりが平作堀という入江(隅田川の)で、中川へと注ぐ川があったとのこと。
そして、この地蔵坂通りと古川跡を挟んだ地域は、古代には大きな川であったのではないか、と考察されています。つまり・・・、

Bokuto

この、黄色と水色に挟まれたエリアは、大昔は川底だったかもしれないのです。曳舟駅なんてまるまる入っちゃいますね。うーん、面白い!

明治44年~大正の地図では、地蔵坂通り沿いに溝川を見ることができます。昭和5年には暗渠化されたようですが。実はさんぽ時には、この資料を入手していなかったので、地蔵坂通りはきびだんごで頭がいっぱいになりながらスルーしていました。要、再訪。

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帰り道は、またてくてく歩いて、行きたかったところへ。
向島のレトロな喫茶店(なのか?)「カド」で、活性生ジュースです。いやいやここも・・・、すごいです。他に似た雰囲気のお店は見たことがありません。

さてさて、それなりに満足した鳩の街と暗渠のさんぽでしたが、後に買った「デウスエクスマキな食堂 向島迷宮地帯」を読んでみて痛恨の見落としに気付きました。どうやら、鳩の街の裏路地に、150円~300円でもんじゃを提供する、すばらしきお店があったようなのです。それから、京成白髭線の跡のこと、白髭の防災ロボット団地のこと、ちゃあんと書いてあって脱帽の一冊です。そしてこのエリア、やっぱり素敵です。
鐘ヶ淵でチューハイを飲む旅でも企画し、またそのうちに、訪れたいと思っています。

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コメント

久々の更新、おめでとうございます!
川の話以外にも引用がたくさんあって、すごい中身が詰まってる感じですなあ。川跡含めて墨東エリアがすごく魅力的に見えてきます。
どうこのあとも、ゆっくり無理せず更新してください。たのしみにしてますー。

投稿: lotus62 | 2011年7月 6日 (水) 21時01分

ちょうどだんご屋台が出ていなかったのですね。運が良いのか悪いのか(笑)そしてきびだんご、ウマいですよね。
自分も向島や京島のあたりを歩いた際に残存している井戸にいくつかぶつかり、興味深く眺めたのを思い出しました。墨田の流れもあり、水の流れと密接に関わる土地なのだと改めて認識できました!

投稿: 闊歩マン | 2011年7月 7日 (木) 22時19分

>lotus62さん

ありがとうございます!
墨東にはいろんな情緒が詰まっていますね。今回の川に絡めてもう1つ書きたいものがあるので、それはまたいずれ。

>闊歩マンさん

そうなんです。この、「今日だけやってない」みたいな目に遭うのは、良くも悪くも自分らしいので面白かったですw でも屋台のやつも食べてみたいなあ。
京島のあたりも川の名残がありますよね。池もいっぱいあったようです。
でもホント、長年行けていなかった吉備子屋に行くモチベーションを高めてくださったのは闊歩マンさんだったのでした。教えてもらえてよかったです。感謝です!

投稿: nama | 2011年7月 8日 (金) 12時46分

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